チャールズ・エリス『敗者のゲーム』日本経済新聞出版、を読みました。
なかなかセンセーショナルなタイトルの本です。
しかも表紙には禍々しい自体でタイトルが大書きされています。
証券投資の本としては有名ですが、知らない人にしてみたら「あれ何?」って興味を引くこと請け合い。
この本はハードカバーで買って通勤電車の中で読んだので、他の乗客の視線が気になりました。
ですが、証券投資の金言を散りばめた非常に内容の濃い名著でした。
「敗者のゲーム」とは
そもそも「敗者のゲーム」とはどういう意味なのでしょうか。
・プロのテニスは勝つために行ったプレーで結果が決まる「勝者のゲーム」であるのに対し、アマチュアのテニスは敗者がミスを重ねることによって決まる「敗者のゲーム」なのである。
・「プロは得点を勝ち取るのに対し、アマはミスによって得点を失う」
・エキスパートたちのテニスでは、最終結果は勝者の行動によって決まる。
・アマチュアのテニスは、これとはまったく異なる。(中略)得点のほとんどは相手のミスによるものだ。
チャールズ・エリス『敗者のゲーム』日本経済新聞出版
要すれば、
- 勝者のゲーム・・・勝者がとった行動・選択によって勝敗が決するゲーム
- 敗者のゲーム・・・ミスをしない者/ミスを少なくした者が勝つゲーム
上記の整理となります。
そして本書は、投資・資産運用は、敗者のゲームとなったと指摘しています。
機関投資家の大多数が市場平均より高い成果を挙げられる、という前提は正しくない。なぜなら機関投資家そのものが市場なのだから、機関投資家全体としては、自分自身に打ち勝つことはできないのだ。(中略)運用期間の数が膨大で、能力も高く、顧客のために質の高いサービスを提供するからこそ、資産運用が敗者のゲームとなったのだ。(中略)
個人投資家の運用成績の場合は、さらに悪い。
チャールズ・エリス『敗者のゲーム』日本経済新聞出版
つまり、いかにミスを少なくするかが資産形成の成否の鍵を握るということです。
本書の「敗者のゲーム」の概念、ご理解いただけたでしょうか。
注目したこと
本書で個人的に注目したことは以下の3点です。
これらについてご紹介してみたいと思います。
トッププロの投資判断=市場の判断
本書は、トッププロの投資判断=市場の判断だと主張します。
機関投資家たちは、証券アナリスト等から常に最新の情報を大量にもたらされます。
しかも望めば大企業幹部やCEOに直々にインタビューすることすらでき、情報へのアクセス権が一般人とは段違いです。
彼らは非常に優秀な頭脳を持っており、そんな彼らが日々の投資判断を下しています。
そして今日、市場の大部分の取引は機関投資家によって占められています。
これはつまり、マーケットが形成する価格は、機関投資家たちの意思決定の総和だと言えます。
だから、投資で勝ち続けるための最も簡単な方法はインデックス・ファンドなのだとしています。
長いので引用は避けますが、証券投資のドリームチームに入れたいメンバーを本書内で例示している節が面白いです。
思いつく限りの投資の専門家、その道のトップたちを自分の資産運用チームのアドバイザーに迎え入れるとしたら、こんな感じでしょうか。
もうお気づきかもしれませんが、
これらトッププロの投資判断を一つにまとめてしまうには、インデックスを使えばよい。
チャールズ・エリス『敗者のゲーム』日本経済新聞出版
しかもインデックス・ファンドはとても低コストでこのドリームチームを実現できます。
個別株投資のリスクは報われない
市場全体のリスクと異なり、特定のマーケットの一部や特定の証券への投資リスクは、分散させることで解消する。だからこそ、効率的市場では、個別株式ないし特定株式グループのリスクをより多くとったからといって、市場全体の収益率を上回る追加収益は得られない。
チャールズ・エリス『敗者のゲーム』日本経済新聞出版
この一節は、僕にとって金言でした。
効率的市場では、という限定つきですし、現実に効率的市場は達成されてはいません。
しかし世界の証券市場は日々、効率的市場に向かっています。
なおニューヨーク証券取引所はかなり効率的であるとして知られています。
個別株で追加収益を得られるとすれば、個別株の値付けが間違っている=誰かがミスをしている場合だけ、ということになります。
株価は全然気にしなくて良い
考えてみたら当然のことなのですが、僕は以下の一節に感銘を覚えました。
株式を売りもせず、売る必要も無ければ、株価の上下はさほど気にする必要はない。気になるかもしれないが、遠く離れた土地の雷雨やはるか沖合の波の高さ同様、心配するには及ばない。
チャールズ・エリス『敗者のゲーム』日本経済新聞出版
保有している株式の価格を気にしなくて良いのは以下のような理由からという理解です。
価格は気にしなくて良いというのは、長期投資家として是非持っておくべき心構えです。
と言っても、自分のポートフォリオの評価損益はいつも気になるものではありますが。
インフレ影響は非常に重要
インフレの影響は資産形成に与えるインパクトが非常に重大です。
インフレが資産価値を目減りさせることは知識としては知っていましたが、図表を用いた説明を見て改めてインフレの怖さを認識しました。
一般的に許容されている年率2%のインフレが続けば、購買力は36年で半減する。年率3%のインフレが続けば、購買力は24年以内に半減する。次の24年間でさらにその半分になる。
チャールズ・エリス『敗者のゲーム』日本経済新聞出版
これは、一般的には60歳とか65歳とかでリタイアした場合に、自分が死ぬまで資産が十分な規模で残存してくれるかどうか覚束ないということを意味します。
インフレへの備えは必須です。
下表は本書に掲載されていたインフレ率ごとの資産半減年数です。
インフレ率(%) | 資産を半減させる年数 |
2 | 36 |
3 | 24 |
4 | 18 |
5 | 14 |
6 | 12 |
7 | 11 |
著者は、長期投資の真のリスクはインフレであるとして、以下のことを言っています。
実践したいこと
この本の内容で自分に取り入れたいと思ったことは下記の2点です。
インデックス・ファンドへの投資
インデックス・ファンドにも弱点はあります。
しかし、資産の増大を図るという資産形成の目的においてインデックス・ファンドよりも合理的な手法は無いです。
インフレ影響を加味した資産配分(アセットアロケーション)
チャールズ・エリス氏は生涯を通じてポートフォリオは100%株式で良いとさえ言っています。
インフレによる価値の破壊力は極めて恐ろしいものがあります。
僕もまだ30代前半なので、現在はリスク資産は100%株式にしています。
先日友人に軽く資産形成とインフレの話をしました。
友人は「インフレなんてするかな〜?」と、呑気なことを言っていました。
日本国民はデフレ経済にすっかり慣らされてしまっています。
しかし国が、相も変わらずインフレターゲットを2%に設定していることは忘れてはならない事実です。
まとめ:投資の真髄は負けないこと
以上、チャールズ・エリス『敗者のゲーム』日本経済新聞出版について、僕が気になったことと実践したいことをご紹介しました。
大筋として、投資の真髄は負けないことであると僕は理解しました。
投資で負けて市場からの退場を余儀無くされないことが大事、というのは色んな本で言及されていますね。
本書の著者、チャールズ・エリス氏と『ウォール街のランダム・ウォーカー』の著者バートン・マルキールの『投資の大原則』も良書です。
それでは、また。
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